AIの悪用が「初めて」国内10大脅威3位に入った2026年——EDRを増やすだけでは足りない理由
IPAが2026年1月に発表した「情報セキュリティ10大脅威2026」で、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初登場でいきなり3位に入りました。1位はランサム攻撃、2位はサプライチェーン攻撃という常連です。そこに割り込んできたAIリスクは、もう遠い将来の話ではありません。EDRのような技術投資だけでは埋まらない溝がどこにあるのか、私たちAI-PathのFDEとしての現場経験を交えてお伝えします。
「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が、初登場でいきなり3位に入った意味
情報セキュリティ10大脅威は、研究者や企業の実務者、約250名で構成される選考委員会が前年の主要インシデントから候補を絞り込むランキングです。最終的には投票で決まります(出典)。組織編で新規の脅威がいきなり3位に入るのは、珍しいことです。
IPAはこのリスクを「AIの悪用」「AIへの攻撃」「運用・法的リスク」の3つに分けて説明しています。攻撃者がAIを道具として使う話と、自社が使っているAIそのものが狙われる話は別物です。そこに、使い方を誤って情報を流出させる話まで加わり、ひとまとめに「AIリスク」と呼ばれているのが実情です。私たちの実感では、この3つを区別せずに議論すると対策が散漫になります。AIサイバー攻撃対策としてEDRの限界を補うには、まず自社がどの種類のリスクに向き合っているのかを切り分けることが、最初の一歩になります。
スピアフィッシングは、もう「日本語が変」では見抜けない
3つのうち、経営者にとって最も差し迫っているのは「AIの悪用」でしょう。AIスピアフィッシングと呼ばれる手口が、その代表格です。元Google幹部が創業したセキュリティ企業AegisAIは、この対策で3,600万ドルのシリーズA資金調達を実施しました(出典)。同社によれば、攻撃者はAIで標的の個人情報を瞬時に集約します。そこから説得力のあるメッセージを自動生成するのです。従来型のメールセキュリティと比べて、突破率はおよそ2倍に達するといいます。この数字が、投資家の背中を押した理由でしょう。
正直に言えば、私たちもこの数字には驚きました。悪質なPDFにパスワード保護をかけたり、CAPTCHAを組み込んだりして標準的なフィルターを回避する手口まで出てきています。「日本語がどこか不自然だから怪しい」という、これまで現場で通用してきた見抜き方は、もう当てになりません。攻撃メールは、もはや量ではなく質で勝負してくる段階に入っています。

EDR市場は伸びているのに、なぜ不安は消えないのか
企業側の投資も止まっているわけではありません。ITRの調査によれば、2024年度の国内EDR市場規模は352億4,000万円で、前年度比13.3%増でした。2025年度も2桁成長が続く見込みです。2024〜2029年度の年平均成長率(CAGR)は6.9%と予測されています(出典)。つまり、企業は明らかにEDRへの投資を加速させています。
投資は増えているのに、なぜ現場の不安は消えないのでしょうか。理由ははっきりしています。EDRはエンドポイント、つまりパソコンやサーバーの内側で起きた異常を検知する仕組みです。攻撃者がメールで従業員をだまし、正規のアカウントとして侵入してしまえば、エンドポイントの中は「正常な操作」にしか見えません。これは、私たちが以前の記事で書いた「ガードレール製品だけでは埋まらない溝」と根っこが同じ問題です。製品は「何を止めたか」を記録します。ですが「なぜその設計にしたか」を組織として語れる状態までは作ってくれません。EDRの限界は、ここにあると私たちは考えています。
私たちが自社のAIPLAで実践している「エンドポイントの外」の統制
では、エンドポイントの外側は何で守るのか。私たちが自社のAIPLAで実践しているのは、機能単位の権限分離、本番反映の二段階運用+人間確認、そしてレッドチームアタックという3層の仕組みです。
これは本来、社内のAIエージェントを統制するために組んだ設計でした。ただし、外部からの攻撃を前提に置き直すと、この3層は「侵入されたあとの被害を最小化する仕組み」としても機能します。権限を機能単位で細かく分けておけば、1つのアカウントが乗っ取られても被害範囲は限定されます。本番反映を二段階にして人間の確認を挟んでおけば、攻撃者が不正な変更を仕込んでもステージングの段階で気づけます。そして、顧客の自社環境へ移行する前にあえて攻撃を仕掛けるレッドチームアタックで、想定していなかった穴を自分たちで先に見つけて塞いでいます。私たちはこの3点を自社で先に実践し、そこで見つかった穴を顧客環境に展開する前に塞ぐようにしています。

「うちは大丈夫」と思う工場ほど危ない
ある大手化学メーカーのDX推進担当者は、AI導入の手軽さに触れながら「工場のPCが破られると中に入られる。ヒューマンエラーのリスクは拭えないのでは」と、技術対策だけでは消えない人的リスクを率直に指摘していました。つまり、EDRやガードレール製品を入れても、人が一度だまされれば意味がなくなるという指摘です。この懸念は、的外れではないと私たちも思います。
私たちの実感を言えば、IDとパスワードしかない状態で、社内VPNへの総当たり攻撃だけで基幹システムに入られてしまった、という話は珍しくありません。「VPNを切っているから安全」という前提に依存しすぎているケースを、私たちは何度も見てきました。
裏側のデータベースはそのまま活かしつつ、制御を細かく組めるモダンなアプリケーション側で作り直したほうが、結果としてセキュリティレベルは上がることが多いというのが私たちの経験です。古いシステムだから狙われないという思い込みは、むしろ危険信号だと捉えたほうがよいでしょう。狙われないのではなく、単に気づいていないだけというケースを、私たちは何度も見てきました。
まず何を診断すべきか
ここまでの話を踏まえると、最初にやるべきはEDRの追加導入ではありません。自社が抱えているのが「AIの悪用」「AIへの攻撃」「運用・法的リスク」のどれなのか、そして権限設計やログがどこまで整っているのかを、まず棚卸しすることです。ツールを増やす前に、現状を正しく把握する。この順番を間違えると、投資だけが積み上がって不安は残り続けます。データ主権の観点から自社の統制を見直したい方は、あわせて参考にしてください。
よくある質問
Q. 中小企業でもEDRは必須ですか。
規模に応じた優先順位づけが必要です。私たちの経験では、まず影響範囲の大きいデータ(顧客情報・基幹システムへのアクセス権)から権限を整理し、EDRのようなツール投資はそのあとに検討するという順番が現実的です。
Q. AIエージェントを社内で使うこと自体がリスクなのでしょうか。
いいえ、そうではありません。リスクなのはAIエージェントそのものではなく、権限設計や監査の仕組みが伴っていない状態で使うことです。私たちの現場経験では、機能単位の権限分離さえ先に決めておけば、AIエージェントの活用と安全性は両立できます。
まず試すなら
- 自社が直面しているAIリスクが「悪用」「攻撃対象」「運用・法的」のどれに近いか、まず言葉にしてみてください。
- 基幹システムへのアクセス権が、退職者や異動者のぶんも含めて棚卸しされているか確認してください。整理されていなければ、そこから着手する価値があります。
- 本番環境への反映が、人間の確認を挟まずに一気に行われていないか見直してみてください。
AI-Pathでは、無償の業務プロセス診断(BPR)を実施しています。まずは無償の業務診断で、自社がどのAIリスクに向き合うべきかを明らかにしませんか。
参考リンク
櫻井 文雄(さくらい ふみお) 株式会社AI-Path 代表取締役CEO
関西大学法学部法律学科卒業。財務コンサルティング会社(エフアンドエム)、外資系生保営業(Prudential)でコンサルティング営業の経験を積んだ後、起業し様々な企業のCTO/CMOを歴任。その後、デロイトトーマツコンサルティング(Big4)、ABEJA(AI研究開発の国内リーディングカンパニー)にて官公庁・製造業・金融業・小売業・不動産業を中心に延べ20社以上のDX推進や業務システム刷新をPM/SMとしてリード。利用者目線での現場の課題解決にフォーカスしたものづくりに拘り、導入ではなく「定着化」を目的とした伴走型のプロジェクト推進・システム導入を得意とする。2025年にAI駆動開発(VibeCoding)と出会い、より多くの人・企業に価値提供するためにAI-Pathを創業。
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