容器・パッケージの意匠侵害リスクを画像AIで一次チェック ― 機密を社外に出さない社内完結型SaaS
新商品の容器・パッケージのデザインが、すでに登録されている他社の意匠と似ていないか。画像を1枚アップロードするだけで、似た意匠の候補とリスクの目安を数十秒で示します。しかも機密デザインは社外に一切出さない社内完結型。知財部門の出願前チェックを安全に・速くするB2B SaaSをAI-Pathが設計・実装しました。

背景・課題
容器やパッケージは、ボトルの形・キャップ・箱・トレーといった見た目がそのまま商品価値になり、デザインの権利(意匠権)で守られることが多い分野です。そのため新商品を出すたびに、すでにある他社デザインとぶつからないかを調べる必要があります。
ところが従来の調べ方には3つの悩みがありました。目視に頼るため調べる人の経験やキーワードの選び方で結果が変わること。容器は「わずかな形の違い」で似ているかどうかが分かれるため、言葉(物品名)の検索だけでは見た目が似たデザインを取りこぼしやすいこと。そして、出願前の新デザインは社外秘で、便利な外部AIサービスに画像を送ることへの抵抗が強いこと。
つまり「見た目で似たものを探したい、でも機密は外に出したくない」という相反する要望に応える手段が求められていました。
アプローチ ― FDE × AI駆動開発
要件をすべて固めてから一括で作る受託型ではなく、現場に入り込むエンジニア(FDE)が伴走し、AIを活用して短期間で「動くもの」を形にし、実際に使いながら改良していく進め方で着手しました。
まず容器分野に的を絞り、「画像を入れる→似た意匠を探す→リスクの目安を出す」という一連の体験を最小限の形で最初に通すことを最優先にしました。そのうえで、容器に特化した精度向上から本番運用へと段階的にステップアップする計画を立てました。調査に使うデータは特許庁の公式な提供ルートに限定し、利用規約に反するデータの取り方はしない方針を最初から徹底しています。
ソリューション
容器の画像をアップロードすると、見た目の似ている登録意匠をAIが瞬時に探し出し、似ている度合いの高い順に候補を一覧表示します。さらにその候補について、「形が似ているか」「同じ・似た用途の物品か」という2つの観点でリスクの目安(高/中/低/なし)と、その理由を日本語で示します。
主な機能:画像をアップロードして見た目の似た意匠を探す(似ている度合い付きで一覧表示)、物品名や説明文(テキスト)での検索、候補に対するリスクの目安と日本語のわかりやすい理由説明、調べた履歴・判定結果が自動で残る(あとから根拠を確認できる)、登録意匠のデータベース閲覧(基本情報+図面)。
なお画面には「これはあくまで一次チェックであり、最終的な判断は弁理士にご相談ください」と明示し、専門家の判断を置き換えるものではないという位置づけを徹底しています。
利用サービス
- AI駆動開発(FDE伴走)
- 画像で探すAI検索基盤の設計・実装
- 社内完結型AI(ローカルLLM/RAG)の構築
- AI検索向けデータベース設計
技術・アーキテクチャ
長く安心して使える堅牢でスケールする構成で、既存業務に無理なく組み込めるように設計しました。
- 堅牢でスケールする構成:「探す」役割と「リスクを判定する」役割を分けて作っているため、片方を強化・改良しても全体を止めずに段階的に育てられます。利用が増えても拡張しやすい構成です。
- 既存システムと無理なく連携:画像検索・テキスト検索・リスク判定を標準的な仕組みで呼び出せる形で提供し、社内の他システムやワークフローに組み込みやすくしています。
- 再現性のある運用基盤:クラウド上のデータベースとホスティングで本番稼働済み。環境をまるごと再現できる作りで、安定運用とメンテナンスを両立します。
採用した個々の技術名は技術スタックのチップにまとめています。
セキュリティ・ガバナンス
この案件で最も大切にしたのは、出願前の機密デザインを社外に一切出さないことです。
- 機密が外に出ない:画像を分析する処理もリスクを判定するAIもすべて自社・社内のネットワーク内で完結します。まだ公開していない容器デザインを外部の商用AIサービスに送ることはありません。
- 権限が分かれている:検索履歴や判定結果はその会社(テナント)の中からしか見られません。誰でも全データを見られるような作りにはしていません。
- 操作の履歴が残る:誰が・何を調べ・どう判定されたかが記録として残り、あとから根拠をたどれます。
- ルールに沿ったデータ利用:調査に使うデータは特許庁の公式ルートに限定し、利用規約に反するデータの取り方はしません。
- 専門家判断を尊重:出力はあくまで一次チェックで、最終判断は弁理士に委ねる旨を画面に明示しています。
機密性が壁になりがちな知財部門のAI活用において、外に出さない設計を前提に置くことで導入のハードルを根本から下げています。
成果 ― 定性
- 言葉での検索に頼らず『形が似ている』意匠を画像から直接見つけられるようになり、見た目が似たデザインの取りこぼしを減らせる見込みです。
- 候補を探すところからリスクの目安・理由の提示までを一画面にまとめ、人によってばらつきがちだった調査の手順を標準化できます。
- 機密デザインを社外に出さずにAI検索ができるため、知財部門がAI導入時に最も気にする情報漏洩の不安を設計の段階から解消しています。
- 容器という分野に的を絞ることで、汎用的なツールでは届きにくい精度の作り込みに踏み込める余地を確保しました。
想定導入効果(年商100億円規模での試算モデル)
※下記は実測値ではなく、同規模・同業務での一般的な改善幅から試算した想定値です。実際の効果は環境により異なります。
- 出願前の意匠類似調査の一次チェック: 1件あたり 半日相当の目視作業 → 数十秒(試算)
- キーワード検索では拾えない類似形態の見落としリスク: 構造的に低減(試算)
- 外部クラウドAIに機密デザインを出さないことによる情報漏洩リスク: 設計上ゼロに(社内完結/定性)
- 調査品質の属人化解消による、担当者ごとの判定ばらつき: 縮小(試算)
内製化・運用・今後
「探す」「判定する」を分けた構成と、環境をまるごと再現できる作りにより、AIの差し替えや能力増強を、ほかの機能を止めずに段階的に進められます。判定用のAIを社内の専用マシンで動かすことで、外部AIの利用料や使用制限に振り回されにくい運用を目指しています。
今後の予定:容器分野に合わせて検索精度をさらに引き上げ効果を数値で評価する、本番運用に向けた機能拡充と複数企業が安全に使えるSaaSとしての提供、商用提供フェーズでは調査・学習に使うデータを公式ルート由来のものへ完全に切り替えてライセンス面の整合を確保する。
知財部門の皆さまが生成AIの活用でいちばん気にされるのは、『出願前の機密デザインを外部に出してよいのか』という点です。本案件では、画像の分析もリスク判定のAIも、すべて社内のネットワーク内で完結させ、まだ公開していないデザインを外部サービスに送らない設計を最優先にしました。動くものをまず本番に乗せて現場で精度を磨く進め方と、段階的なステップアップで、容器分野に特化した実用的な一次チェックを実現しています。
― AI-Path|本プロジェクト担当FDE